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純文学系小説を中心としたブックレビュー、書評・紹介。 あと、テクノロジーの進化と身の周りのことも。

『スクールアタック・シンドローム』 舞城王太郎

スクールアタック・シンドローム (新潮文庫 ま 29-3)
『スクールアタック・シンドローム』 舞城王太郎

■短評

短編というには長い、中編小説が3編収録されている。

表題作『『スクールアタック・シンドローム』は日常にある暴力の伝染と拡散を描く。
破綻のない美しい文章なのだが、絶望のカタマリみたいなモノが常にある。
『小説を書く動機』とも言えるような、アツい『熱』を感じさせてくれる傑作。








■読んだ動機

暴力的な小説を読みたい衝動に駆られて購入。

舞城作品は以前に『山ん中の獅見朋成雄』『阿修羅ガール』『パッキャラ魔道』を
読んだことがあって(順番は読んだ順)日常的な暴力の描写を覚えていた。
ここ数年は読んでなかったのだけれど、久しぶりに買ってみた。

3つの作品のうち2作が単行本に収録されていた、などの予備知識は全くなかった。


■ジャンル

短編というには長い、中編小説が3編収録されている。

前の2編『スクールアタック・シンドローム』『我が家のトトロ』
単行本『みんな元気。』に収録されていて、
最後の1編『ソマリア、サッチ・ア・スイートハート』は書き下ろし。

今まで読んだ舞城の作品に共通しているのは
暴力とファンタジーが日常にある というイメージ。
今作の3編にもそれは引き継がれている。

舞城王太郎は最初メフィスト賞を取って、ミステリのジャンルから出てきたが、
その後三島賞を受賞したり、文芸誌に作品を掲載している。
今は純文学の括りになる。というのが、一般的な認識でしょうか。

『ソマリア、サッチ・ア・スイートハート』は展開がややミステリっぽい。

ただ、そういう一般的なジャンル分けはこの人にはあまり意味がないように思う。
それぞれのジャンルの体裁をどうにでも保てるだけの文章力、構成力があるし、
どのジャンルを下敷きにしても、舞城ワールドが損なわれることはない。


ちなみに舞城は『好き好き大好き超愛してる。』で芥川賞にノミネートされていたが、
覆面作家で人前に姿を見せない彼は、受賞しても記者会見に出席しないことが予想され
ノミネートの時点で受賞はないと言われていて、実際その通り受賞しなかった。

これ、当落線上の作家が受賞を逃しても大したニュースにはならないのだが、
実績も作品の出来ももう芥川賞のレベルを充分に満たしていると
多くの人に当然のごとく受け入れられている舞城だったから、事件として扱われた。

芥川賞ってのは、作家のこれまでの実績、ノミネート作品の出来、よりも
記者会見に出ることを重視する、閉鎖的で、仲良しクラブみたいな、
ケツの穴の小さい、商売最優先の、形骸化した賞なんだなと、
今さらながら、世間に再確認させたわけだ。

受賞しなかった作家ではなく、受賞させなかった賞の評価が下がってしまう。

舞城王太郎ってのはそれほどのビッグネームなのだ。


■読みどころ

『スクールアタック・シンドローム』

この作品だけでなく、3作すべてに言えることだが、

日常の中に当たり前のように存在する暴力をとても自然に描いている。
劇的さをともなわない暴力。
日本で一般的な生活をしているフツーの人からすると
自然な暴力は逆に不自然で違和感を感じそうになる。
でも、違和感を与えようと狙っているんでは全然なくて、
日常に見事なまでにとけ込んだ暴力描写がすばらしい。


最近読んだ小説はどれもテクニック、手法が主張する作品ばかりだった。
良くも悪くも。

文学界新人賞の二作はテクニックと手法以外に見るべきモノはなかったし、
綿矢りさは手法に気を取られて完全に自分を見失っていたし、
山田詠美や島田雅彦はスゲーうまいんだけど、うまくまとめるテクニックに気を取られて
 話に集中しきれなかった。

だが、この作品は違う。
テクニックが主張しすぎない。

もちろん、テクニックが不足しているってことではない。
暴力描写の入れ方は自然だし、文章のリズムもいい。
そういう細かいテクニックはもちろんだが、
中盤から会話を徐々に増やしながら進む流れや
シーンごとの枚数のバランスなど、全体的な構成も非常に安定している。
王道というか、ベタというか、教科書通りのきれいな構成をサラリとやっている。
つまり、やっぱりこの作品には超絶テクニックが駆使されている。

だけれども、読んでる途中に、
今回は純文学用にお行儀良くしてるな、などと気が散らないのだ。

その要因は、『テクニック』よりも
作品を生み出すアツい『熱』を感じるからだろう。
『小説を書く動機』とも言えるような、絶望のカタマリみたいなのを常に感じさせる。

舞城作品の最大の美点はこの『熱』だ。
そして、『テクニック』はすべての『熱』を余すトコなく伝えるための
手段でしかないとよくわかっているトコだ。

では、舞城の『熱』はどこにあるのか。
それはもちろん、単純に言い表せないのだが、
人を食うコト 【食人】というが一つのキーワードになると思う。

人を食うシーンはハッキリ言ってノリノリなんだよ。
文章が熱を帯び、こちらも熱病に侵されたように作品の世界に引き込まれる。
人を食っているシーンなのに、読んでて楽しくなってくる。

人を食う行為 を 楽しいと感じる
なんてことが、他のメディア、芸術に存在するか?
映画でもテレビでもアニメでも写真でも絵でも、そんなふうに感じたことはない。

作者の熱気にあてられて、感情を乗っ取られてしまうような感覚。
このために小説を読んでるんだ。と心から思える『熱』をこの作品は持っている。


『スクールアタック・シンドローム』
『ソマリア、サッチ・ア・スイートハート』
の二作はアツい『熱』が優れた技術によってダイレクトに伝わってくる秀作。

より素直に肯定的に【食人】を表現している『スクールアタック・シンドローム』を
特にオススメしたい。
素直にハッピーエンドだしね。


■こんな人にオススメ

作風も、ジャンルも違うのだろうが、
『NHKにようこそ』の 滝本竜彦 と近い匂いを感じる。
滝本竜彦 ファンにはぜひ読んでほしい。

『NHKにようこそ』の書評

食人、食人って書いているが、一つ一つの描写はそんなにエグく感じさせない。
美しい文章なので、意外とダイジョブです。
きれいな絵のマンガを読んでいる感じがする。
きれいな絵のマンガが好きな人も読んでみるとイイかも。


■コキ下ろしてみる

ここまで、はっきり言ってベタ褒めでした。

すばらしい作品だってこともあるけれど、
「暴力的な作品が読みたい」っていう欲求に
完璧にハマった作品だったってのもかなり大きい。

こういう気分になりたいときはこの作家 って組み合わせがうまくハマると幸せ。

今回の書評は、自分の気分に最適な小説を選べた喜びも影響してる。

でも、まあ、コキ下ろす点はないです。
なので、長い目で見て気になる点を少し、


舞城王太郎のほとんどの作品は
福井県か東京郊外(もしくはその両方)が舞台となり、
日常的な暴力と偏執狂な部分が描かれていて、
最後のオチが甘い。ツメが甘いって意味でなく、甘美なハッピーエンドの香りが強い。

『熱』の発生源も、知る限りそれほど多様性を持っていない。
あくまで【食人】がメイン。

舞台設定が安定していて
『熱』の発生源も安定している。

今はまだ、変化する必要がないのだろう。
今の舞城王太郎は【食人】ってテーマで小説を書くのに
最も脂の乗った時期なのかもしれない。

でも、人間同じことを続けていると、必ず飽きたり行き詰まったりするトキがある。
ずっと【食人】をキーにして熱を保持し続けて、書き続けるのは難しい。
そのとき、うまく次の熱源を見つけられるのだろうか。それが気になる。

大江健三郎が【死体】フェチから【知的障害の息子】に熱源を移していったような
長いスパンでの熱源の移り変わりは、努力や才能でどうにかなるモンでもない。
運命的な出来事に直面しないと、ゴロッとは価値観はシフトしないだろう。

まあ、そういう出会いは、たぶん、人として良い出来事ではないだろうが、
一読者として、無責任に、
舞城王太郎という作家が新しい熱源に出会えることを切に願っている。



■他の作品

『山ん中の獅見朋成雄』

山ん中の獅見朋成雄

これも【食人】を扱う作品。
舞城の作品を初めて読むなら、こっちのほうがいいかもしれない。

もう、どうしようもないくらい引き込まれたトコロで人を食っちゃうから、
少しくらい拒否反応が出ても最後まで読んでしまえる。






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