
■短評
北朝鮮との国家間の駆け引きで後手後手になる日本。
現場とかけ離れた軍と政府の上層部。
この時代のスタンダードな戦争の手段はテロであり、
中央集権的な管理では、もはや何も解決しない…
なんてコトをシリアスに語ってますが、そんなのは全部ただの前置き。
戦争という非常事態の下、敵を倒すことに知力体力の全てを傾け、
命がけで戦う男たちを書きたいだけなんですよ。龍は。
■読んだ動機
村上龍の小説は大抵読んでいるのでいずれ読むつもりだった。
それに、後述してるけど、彼の作品の中でも「はずれなし」の
“戦争ごっこ系”の作品と聞いていたので、かなり買う気でした。
けど、通勤で読むにはデカすぎる。
発売後躊躇すること2ヶ月。やっぱ文庫化するまでは待てないので購入。
■ジャンル
純文学の大御所なんですかね。教科書とかにも出てくるし。
基本的に村上龍はドラゴン文学を独り突っ走ってる感じで、
追従者なしってのが定説です。
著者の作品は表層的なテーマが時代ごとに移り変わってます。
ドラッグ系とか、SM系とか、テーマ短編集とか、戦争ごっこ系とか、
政治系とか、自伝的なのとか。いろいろです。
本作はその中でいうと、“戦争ごっこ系”のど真ん中に近い作品。
この“戦争ごっこ系”は筆者が初期から継続して書いているテーマで、
かなり楽しめます。ホントある意味で「はずれなし」なんです。
■読みどころ
北朝鮮との国家間の駆け引きで後手後手になる日本。
現場とかけ離れた軍と政府の上層部。
この時代のスタンダードな戦争の手段はテロであり、
中央集権的な管理では、もはや何も解決しない…
なんてコトをシリアスに語ってますが、そんなのは全部ただの前置き。
戦争という非常事態の下、敵を倒すことに知力体力の全てを傾け、
命がけで戦う男たちを書きたいだけなんですよ。龍は。多分。
ホテル占拠、銃撃戦、生物兵器テロ、爆破工作テロなどなど、
テロ、局地戦のあらゆる手法が出てきて飽きさせません。
相当な量の文献資料を読み漁っているのが手に取るようにわかる
ほどの書き込み具合は圧倒的なんですが、要は、この人 完全な
兵器マニア、局地戦マニア、テロマニアなんでしょうね。
著者は、持ち前の文章力、構想力を駆使して、
大好きな局地戦とテロをどこまで奥深く展開させていけるかを
楽しんでいるんだろう。とボクなんかは考えています。
なので、難しいことは考えず、単純に局地戦やテロに対する
熱い思いを堪能してください。
あ、それと、北朝鮮を北朝鮮軍人の視点で描いたのが、
この作品を単なるテロマニアの妄想で終わらせてしまわない、
村上龍の偉大な点であることを最後に。
拉致問題はいまだ解決せず、世間が北朝鮮に最も興味を持っている
時期に、日本人の作ったドキュメンタリーやインタビューでは絶対に
できない、「日本人からの見方を完全に排した表現」をやってのけ、
フィクションの可能性、優位性を示したわけです。
小説は芸術であると同時に、大衆の興味を満たす情報媒体の一つだと
認識し、時代性を重要視する村上龍の考え方がこの作品の中にも生きてます。
■こんな人にオススメ
テロ好き、局地戦好き、戦争ごっこ好きなお兄さん。
『マスターキートン』とか
『パイナップルアーミー』なんてマンガが好きな人。
九州北部、特に福岡に土地勘のある人。
逆に、
『13歳のハローワーク』や
『69』で有名な村上龍の最新作だ。

と思ってしまった人にはダメかもしれません。
■こき下ろしてみる
まず、登場人物が多すぎ。正直読んでいて個体の識別は難しかったね。
簡単に分けて3つほどあるグループの誰か、という程度の認識のまま終盤まで
読み進めて一部の登場人物は最後まで名前とイメージが直結しなかった。
てか、楽しむべきはそこじゃないって割り切りがオイラにあったのかも。
それに、上に書いた完全に開き直った3作よりは抑え気味でチョット消化不良。
かといって
『愛と幻想のファシズム』を超える何かもない。
■他の作品
村上龍の戦争ごっこ系の系譜を勝手にまとめてみると
初期の作品
『コインロッカーベイビーズ』、
『愛と幻想のファシズム』


などに、戦争ごっこの雰囲気が色濃く出ていますが、これらはまだ、
開き直りが足りていない時期の作品で、逆に日本文学界からは
高い評価を得ています。
開き直ったのは
『五分後の世界』、
『昭和歌謡大全集』

からでしょうか
『ヒュウガウイルス −五分後の世界2』
も含めた3作品は完全に開き直った
戦争ごっこ系と言えるでしょう。
村上龍作品全体でのオススメは
『走れタカハシ!』 −テーマ短編集−
『走れタカハシ!』の書評
<
『長崎オランダ村』 −自伝的なもの−
『長崎オランダ村』の書評
『愛と幻想のファシズム』 −政治系 + 戦争ごっこ系−

3作ともすでに古典の域かも知れませんが、オススメ。
書評ブログのランキングです。よかったらどうぞ。
テーマ:オススメの本の紹介 - ジャンル:本・雑誌