■読んだ動機
文藝新人賞受賞時に雑誌掲載分を読んだのが最初だった。
文藝の新人賞はほとんど読むようにしていたので、話題になる前に読んだが、
受賞した時点で現役女子高生だった著者の経歴と、ビジュアルを
最大限活かしていこうとする出版社側の意図は感じられましたね。
しかし、ここまで話題になるとは当時は想像してませんでした。
この後、友人へのプレゼントとして単行本を買い、
他の作品が載っているので文庫も買った。
一つの作品を雑誌、単行本、文庫本 と3つの形で購入したのは
今までにない珍しいことだ。
ちなみに、本をなくしたり、誰かにあげたりして、
同じ本を買い直すってのはよくあります。
■ジャンル
基本的には《私小説系》で《青春モノ》。
そんなジャンルに名前を付けるとすれば《文藝系》です
文藝新人賞はここのところ十代の著者が受賞する
ことが多く、内容はどれも私小説的。
綿矢りさが、『インストール』が、あたって以来、文藝は迷いなく
この私小説的青春モノで突き進んでる感じです。
なので、《文藝系》は必然的に学校が舞台になったり、
学生が主人公だったりするモノが多い。
設定がありがちなので、入っていきやすいし、説明が少なくて済む。
その上読みやすさが選考の基準の大きな部分を占めているのか、
淡々と読み進める作品が多い。
最近の 文藝新人賞 の特徴はそんなところ。
この『インストール』はそんな流れを作った代表作でしょう。
二作目の『蹴りたい背中』で芥川賞を受賞した後には
「今時の女子高生の生態観察ができる本」みたいな位置付けで
世のオジサンたちに読まれることもあったようです。
■読みどころ
舞台設定はベタな学校から始まる。
主人公の女子高生が、いつも通りの教室で
休み時間のありふれた会話を続ける。とかそんな感じ。
主人公は未来への漠然とした不安を感じるんだけど、
やっぱり漠然としていてカタチにならない。
そんな不安を無理矢理カタチにしてしまって道を踏み外す。
主人公が道を踏み外してしまう源となる「狂気」が
日常的で微妙な「ズレ」や「ゆがみ」から生まれてくる様を
一つ一つのセリフやしぐさを通して丁寧に積み上げられている。
この、淡々と確実に踏み外していく様子はかなり良くできている。
自分の若さが価値のあるモノと自覚できていない女のコが持つ
子供みたいな瑞々しさ、幼さが作品全体にブレなく貫かれている
からだろう。
その手法、仕掛けは純文学の正攻法だ。
その上、文体が自然で美しいですね。
ミステリみたいに最後にドキドキのオチがあるわけじゃないけど、
作品全体で締め付けられるような抗えない魅力を醸し出す。
純文学のすばらしさはそんなところにある。と考えてるんだけど、
それが見事に体現できている秀作です。はい。
■こんな人にオススメ
マンガなら読むけど、まじめっぽい小説を読んだことがない
って人に是非読んでほしい。
マンガでも、絵がきれいなマンガじゃないとイヤって人はハマリますよ。
ラブストーリーなら劇的でドロドロなヤツが好きな人、
ミステリとかが好きで最後のオチが楽しみって人、には向かないかな。
緩いけど、強いって感じなので。
■こき下ろしてみる
記憶があいまいだが、雑誌での発表時から加筆修正してる気がした。
(昔買った雑誌があれば、確認してみます)
具体的に言うと、主人公が自分のパンツが見えたりするのを意識して
しまう描写だ。
文庫では、これが作中に何回か出てきた。
雑誌掲載時には 1回あったか、なかったか、だったはずなのに。
で、このパンツの描写。読んでるときに違和感があって気が散るんだよ。
加筆修正は、違和感なくイメージがふくらむようになるんであればいいよ。
オイラは基本的に 加筆修正賛成派 だよ。
でも、この加筆はかなりダメダメ。
主人公は自分の若さ、未完成さに不安を覚えて無理矢理逃げ出そうと
してるのに、そんな女のコに「他人から自分のパンツが見えちゃってるか」
を気にするような“自意識過剰”な描写は明らかに浮いてるだろ。
誰が思いついたのか知らないけど、
女子高生に「パンツ」「パンツ」って言わせたいだけだろ。
ここだけは読んでてイライラした。
それと、書き下ろしの短編。ヘタです。
■他の作品
蹴りたい背中綿矢 りさ
これで芥川賞をとりました。
全体的なテイストはほとんど同じなんだけど、
こちらには具体的な男のコが出てきます。
乱暴にいってしまえば、
『インストール』は小学生のガキみたいに悩む女子高生で
『蹴りたい背中』は中学生のガキみたいに悩む女子高生。
どちらも、そのギャップが世間とのギャップになって
はみ出していく様を丹念に描いている。
片方が気に入れば、もう片方も読んだほうがいい。
損はしません。
夢を与える
『蹴りたい背中』の次に、芥川賞受賞後一作目として
発表されたのがこちらです。
『夢を与える』の書評
こちらを参照ください。
あまりオススメではないです。
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